数ヶ月前、「今からZというやつが行くから、○○を渡してくれ」と社長から電話がはいり、そのとおりにした。
初めて見るそのZさんに、こちらは不審な顔つきだったのではないかと思う。
Zさんが○○以外のものについて尋ねたので、それは聞いていないのでと困惑した顔まで見せてしまった。
するとあっさりお礼を言って出ていったZさんは、停めていた車の中から苺を持って引き返してきて、恐縮したままの私に苺を押し付け、繰り返しお礼を言いながら頭を下げて帰っていった。
私は、自分が不親切だったのではないかと恥じながら、なぜかとりかえしのつかない気持ちで胸をざわめかせ、苺を抱えて見送った。
ここ数日、どこかで苺が匂うように感じ、甘くまとわりついてくるようでさえあった。
苺といえばと、数ヶ月前のそのZさんの出来事も思い返していた。
土曜日に、社長がやってきて「おい、Z、死んだぞ。今晩お通夜だ」と言うのである。
驚きながらも妙に納得がいき、たった一度だけ会ったZさんの帰る姿を思い返した。
それだけの縁で、社長の口から名前を聞いたのも2度だけである。
苺が食べたかったわけではないのである。
苺の匂いが漂っていたのである。
シンクロしてたのかな。
こういうことが、私は割りと多いのだけど。
私はなにを気づけばよいのだろう…、といつも思ってしまうのだけど。