今読んでいる本の巻頭に、小林秀雄が餞別にもらったカメラで初めて撮ったという写真が載っている。
「ギリシア・エヂプト写真紀行」と題されたその写真に添えられた文には、ローマで現像した写真に失くした露出計が写っていて大笑いしたとあり、私もおかしかった。
そのうえなんと、ローマでは写真機を紛失したらしく、「僕は写真なぞに、大して興味を持っていないから、いっそさばさばした気持ちになった」と書いてある。
それが強がりかと思えば、「出鱈目にパチパチやって来て整理もしないでおいたので、こんなことをやらされて大骨を折った。もうカメラがないのだから安心である」とあって、物に対する執着の強い私は驚きながらもふきだしてしまい、やはりさばさばした気持ちになったのでした。
余計なことに執着しない、って人生を無駄なく無理なく生きるのに必要なことのように思うのですが。
私の場合は思い入れの錘が、おっきいかちいさいかの二つしかなく、いつもなんだかバランスの悪い状態です。
カメラ失くしてしまったら、一生後悔しそうだなあ。
でも、案外潔くあきらめてしまうかも。
もしかしたら、早くあきらめられるかどうかの違いだけなのかもしれませんね。
なんだか小林秀雄からも本からも写真からも離れてしまいましたが。
本は「小林秀雄全作品20」(新潮社)です。