10年くらい前に、ファミリーレストランで夜9時からの深夜アルバイトをしていた。
食事をする場所では、様々なドラマが生まれる。
その日は母の日で混んでいた。
テラス席に、ほっそりとした美しいお母さんと娘さんが座っていた。
テーブルの上には、珍しい原色の花などを取り合わせた大きな花束が置いてあった。
私がそのテーブルでオーダーをとっていた時に、もうひとりのお嬢さんが遅れてやってきた。
3人ともよく似た美しい母娘だった。
息を切らしながらテーブルの上の花束をみて
「わあ、お姉ちゃんの花束大きい。私の小さくてごめんね。母の日ありがとう」
と赤いスプレーバラの花束を差し出した。
お母さんはうれしそうに受け取り、上のお嬢さんと花束をのぞきこんだ。
「私の小さいなあ」「そんなことないわよ、きれいねえ」
可憐なミニ薔薇の花束も、ボリュームのある華やかな花束も、姉妹の性格を表しているように思えてすてきだった。
お母さんはうれしそうだった。
それで、そのお母さんが感激するより先に、その場に居合わせそのやりとりを見ていた私のほうが、思わず泣き出してしまったのでした。
やれやれ。きっとその3人は訳も分からず困ったことでしょう。
そういうわけで、深夜のファミレスで私は何度も泣いた。
女性がまちあわせに遅れてしまい喧嘩になったカップルの席では、それとなく水の入ったグラスをテーブルの真ん中にくっつけておいたり、オーダーをとる時に二人で相談しなければ答えられないようなことを尋ねて、黙ったままの女性が口をひらくきっかけをつくったりした。
優秀で気の利く学生アルバイトが多かった中で、つかえないおばさんアルバイトだったけれど、お客さんには数々の失敗を大目にみてもらい、やさしくしてもらった。
つらかったけど、ドラマティックな夜のファミレスであった。
それで今夜はそのお店で、お客として食事をしてきたのでした。