この世界がすっかり あたたかい闇をまとい
誰もがみな 目を閉じ眠りに落ちると
わたしたちは螢のようにひかりはじめる
月は顔をかたむけ この世をながめる
わたしたちの光は寝息にあわせてゆっくり息づき
その時起きている月だけが
そのほのかな光を見ている
誰も起きてはいない
誰も知らない
けれどもわたしたちはみな 一緒にひかっている
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なにかをつかんだまま眠る赤ん坊の握りこぶしがひかる
離れて暮らす恋人どうしのひたいがひかる
電車で寝過ごし 閉まった駅の外で眠る人のかかとがひかる
おなかに手をあてて眠る 病気の人のおへそのあたりがひかる
今日ハモニカを吹きながら歌った人のまぶたが涙のようにひかる
やわらかくてまるい小犬のしっぽがひかる
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そしてもう目を覚まさない人の最期の光は
ゆっくり やわらかい頬をなでてゆく
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そうやってたくさんの光がまたたき
静かに飛び交う
わたしたちの夜
(『きおくだま』より「ほたる」部分)