日常のささいな失言から、胸をえぐっても取り去ることができない大きな過ちまで、
わたしたちは自らの臓腑からしみ出す後悔という苦い毒に、
時に唇をしびれさせ、ぎこちなく生きているのかもしれない。
過去の全ては取り返しがつかない。
たとえこの地球のあらゆる人々が「ゆるす」と言ってくれたとしても、
宇宙の果てまで駆けまわって無数の星々から同じ言葉を聞いたとしても、
過去は冷酷に厳然として変わらず、そのしるしは額に焼きついたままだ。
「あの時、ああだったら……」
などと想像するもう一方の人生など存在しない。
わたしたちは選べなかったのだ。
これから先の人生も、これまでの不器用さと同じくらいただ真っ直ぐに続いていく。
渋谷Bunkamuraのル・シネマで、『レイチェルの結婚』を観る。
ふつうの幸せと、それぞれのふつうでない事情。
カメラはそれらの人々の姿を黙って見つめる。
ほっとする映画。
+
乗り合わせたエレベーターが地階に降り、扉がひらくと、
同じ映画の余韻を胸にそれぞれの場所へ帰っていく。
まるで映画のつづきのように。
映画を観終えたあとは、そういうささやかなことさえもあたたかいことに思える。
よい映画です。
5回くらい映画館で観てください。