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沼沢地からの頼り――
…黒いカーディガンがみつからない
ああ、またあの月の亡霊のせいだ
箒草の粒や米の花だけが散らばり
(役にもたたない青い化けものなのだ)
身もこころも錫の自転車ほどおもい
一体あなたは何をしているのです
沼のほとりの小屋で
水晶雑巾に縫針を通してばかりいたわたしです
女童子たちの熱のしみだらけの笹葉、
笹の葉で消炭色のカーディガンを編み
わたしに何がゆるされてありましたか
藁のしべもかなしみも限りはないが
あなたは帰るところがあって幸せだ
わたしは北極へおつかいに行ってきます
眠りのなかですら慰めてくれるのは
雑草に埋もれた引込み線…落葉のくれない…
あなたは頬を赤くはらし
メヒシバの童子をつくっているばかりではないのか
(『艀』「沼沢地からの便り」より部分)
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9月26日は、福井桂子さんのご命日です。
昨年は、東北の実家に滞在していました。
今日は、遠い彼の地を思っています。
故郷は遠く、そこに住む人びとは優しく愛おしい。
生涯、生地に思いを馳せた福井桂子さんもまたそうであったかと、
詩を読みながら考えています。