石の人よ
わたしたちの実現しなかった旅は
みずうみの北の果て
こんな逆光の岸辺こそふさわしい
とはいえ互いに話し合うこともなく
波打ち際で小石を拾い
寄せては返す波の動きをただ
同じ目線の先に見送るだけ
わたしたちは水のそばにいて水を失い
かがよう陽の光を失い
灰の時が来て
わたしたちはたがいに
雲母の
陰ったかけらを
空にかざして
(新井豊美『草花丘陵』所収「みずうみ」より)
かつては、詩が降りてくるのを待ちながら上ばかり見ていた。
思えば俯いて足下ばかりを気にして、この数年を暮らしてきたのかもしれない、
『草花丘陵』を片手に、早春の草花丘陵をはじめ、幾つかの場所を訪ねたのだった。
たどり着く場所を見つけ、海の近くで暮らしている。
生きていく様々なことに打たれ、口ごもったままでは、身が重くなるばかりだ。
『草花丘陵』を読みながら、淡水の風景に誘われる思いがしている。
清々しい風に淀みも吹き払われ、読むたびに救われる。
もう一度世界を見直そう。視線を上げて歩きはじめよう。
そう思わせてくれる詩集と詩人に感謝している。