チルチル おじいさんたちいつでも眠ってるの?
おじいさんチル そうだよ。随分よく眠るよ。そして生きている
人たちが思い出してくれて、目がさめるのを待ってるんだよ。
生涯を終えて眠るということはよいことだよ。だが、ときどき
目がさめるのもなかなか楽しみなものだがね。
◆
光 青い鳥は今度こそ手にはいるだろうと思いますよ。
そのことは、この旅の始めから思いつかなければいけなかった
のですが、でも、けさやっと、明け方の光の中で力を取り戻した
時、その考えが、大空からさす光のようにわたしの心にさし込
んだのです。わたしたちは今、魔法の花園の入口にいます。
そこには、人間のすべての「喜び」と「幸福」が集められていて、
「運命」がその番人をしているのですよ。
チルチル たくさんいるの?それとれるかしら?みんな小さいの?
光 小さいのや大きいのや、ふとったのやほっそりしたのや、
そうかと思うと、きれいなのや気味のわるいのや、いろいろですよ。
一番みっともないのだけは、ずっと前にこの花園から追い出されて、
「不幸」たちのところへ逃げ込んでいるのよ。でも、「不幸」たちは
「幸福」の花園のすぐ隣に住んでいてね、その境はもやか
ごくうすい幕のようなもので区切られてるだけで、それが「正義」の
高みや、「永遠」の谷底から吹いてくる風に、始終吹きまくられて
いるんだということを忘れてはいけません。だから、わたしたちは、
ちゃんと準備して、十分用心してかからねばなりませんよ。
「幸福」たちはたいていごく善良なんだけれど、でも、中には
一番大きな「不幸」よりも、もっと危険で不誠実なのもいますからね。
◆
チルチル みんなかわいらしいなあ。あの子たちどこから来たんだろう?
だれなんだろう?
光 あれは「子供たちの幸福」ですよ。
チルチル なんてきれいなほっぺたをしてるんだろう。きれいな着物を
着てるんだろう。ここでは、みんなお金持なの?
光 いいえ、ここだってほかと同じなのですよ。お金持より貧乏人の
方が多いのですよ。
チルチル 貧乏な人たちはどこにいるの?
光 それは区別がつかないわ。「子供の幸福」というものは、この世
でも天国でも、いつも一番美しいものに装われるんですからね。
◆
チルチル ぼくのうちにも、「幸福」がいるの?
幸福 みんな聞いたろう。この人のうちにも「幸福」がいるか
だってさ。小さなおばかさん。あなたのおうちは、戸や窓が
破れるほど「幸福」でいっぱいじゃありませんか。
ぼくたちは笑ったり、歌ったりしてるんですよ。壁がふくらみ、
屋根が持ち上がるほどたくさんの喜びをこしらえてるんですよ。
◆
水 びんをごらんになったらわたしを思い出してくださいね。
水差しの中にも、じょろの中にも、水おけの中にも、
水道の口にも、どこにでもわたしはいるんですよ。
◆
チルチル ひとりぼっちでどこへ行ってしまうの?
光 遠くではありませんよ。子供たち。そこの「物の沈黙の国」へ
行くのですよ。
◆
チルチル このぐらい青ければいいの?
娘 ええ、これでいいのよ。
チルチル ぼくもっと青いのも見たんだよ。でも
ほんとに青いのはね、それこそどんなにしても
つかまらないんだよ。
◆ 『青い鳥』メーテルリンク/堀口大學・訳(新潮文庫)より
今年、最初に読みなおした本でした。