自分はいったいいつ生まれたのか、またどのようにして生まれたのか、
雪のひとひらには見当もつきませんでした。
あたかも、ふかい眠りからさめたときの感じにそっくりでした。
(『雪のひとひら』ポール・ギャリコ/矢川澄子訳 より)
おかしなこと、と雪のひとひらは思いました。
どちらをむいても、わたしとおなじ、生まれたばかりの雪の兄弟姉妹が
こんなに大勢いるのに、それでいてこんなにさびしくてたまらないなんて。
雪のひとひらは、何かこうなつかしくもやさしい思いやりのようなものが、
身のまわりをすっぽりつつんでくれていることに気がついたのです。
このからだは、ガラスか綿菓子のかけらのような、
幾百幾千の、きよらかにかがやく水晶でできていました。
また引き返してきてくれればいいのに、と、雪のひとひらは、
われ知らずそんな気持になっていました。なぜって、ほんとにあかるくて、
すてきな子だったのです。そうです、日の出よりももっとすてきだとさえ
思われるのでした。
雪のひとひらは、もはやかつてのような、星と十字と三角四角とを織りなした
レース模様の生き物ではありませんでした。
彼女は雨のしずくであり、彼は雪のひとひらでした。
(すべて『雪のひとひら』ポール・ギャリコ/矢川澄子訳 より)