熱のある身で、童子はポロポロ涙をこぼしながら走りに走った。
どうしたのだろう。鉄ノ井を左に曲がり、そこではこわい女の人が、
童子達の右の腕をひっぱり、堤端の方につれてゆくといううわさが
あるので、眼をしっかり閉じて、神社の前の道をまっすぐにニノ鳥居
まで走った。道の両側の風に光る葉桜もみないで、海辺のほうへ
右に曲がって、人けのない小さな公園にたどりついた。
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(福井桂子さんの「アネモネ 薄みどりの朝の光をあびて りすさん! りすさん!」
より部分を。「スーハ!」2号に寄稿していただいた詩です)
鉄の井(くろがねのい)
(写真をクリックしていただくと、文字も読めると思います)
鶴岡八幡宮の倒れた大銀杏を見てから、鎌倉駅に戻る途中、
案内してくれた野木京子さん におしえてもらって足をとめた。
福井桂子さんの詩を思い出しながら、話し、歩く。
福井さんの詩に出てくる鉄ノ井やニノ鳥居や神社。
読み返すと、抜け出た魂のように童子は自在に走り、
それを追う視線も地上からすこし浮いてすべるよう。
熱のある身体からしばし抜け出て、福井さんの思いは、
このあたりも漂っていたのかもしれない。
それにしても不思議な詩です。
植物とも動物とも向こう側の人とも言葉が交わせるあわいの世界。
眼をしっかり閉じたままで童子は走る。
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鎌倉文学館へ。
きれいな瑠璃色の実を見つける。
「リュウノヒゲ」というのだそう。
「ジャノヒゲ」とも。
根は麦門冬湯(咳の薬)という漢方になる生薬だそう。
写真をうまく撮れずに残念。
1枚しか撮らなかったのでこれを。
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中に入り、「鎌倉と詩人たち」を見る。
福井桂子さんの25歳と35歳の写真を見て、
なんだかとてもせつなくなる。
子供時代の面影さえ残るような
かわいらしい文学少女という印象の写真。
わたしはまだなんにも
福井桂子さんのことを知らないのだと思う。
でも、25歳の福井さんに会えてよかった。
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鎌倉文学館の庭のベンチに野木さんと並んで座り、
江ノ電鎌倉駅で買ったパンを食べる。
前日までトンビの話を聞いてこわいよーと言っていたのに、
はるか遠くに飛んでいる鳥はいたものの、
やがてその姿も見えなくなり、安心しきって
切干大根入りパンを食べていた。
(これはとてもおいしかった)
と、突然、左の頬に強い風圧とばさっという音を聞いたと思ったら、
左手のパンがとられてなかった。
あっけにとられて、自分の間抜けさにも最初気づかなかったほど。
飛んでいたトンビが、視界に入らない角度からねらっていたのだった。
あまりの鮮やかさに逆に感心してしまった。
半ば呆然としたまま、スーハ!同人やほかのメンバーとも合流する。
その後、初めてお会いした方のご厚意に甘えて楽しい時間を過ごす。
ありがとうございました。
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通勤の帰り道、連休明けで疲れきって電車に乗る。
鎌倉文学館の「鎌倉と詩人たち」のパンフレットを入れたままだった。
そういえば読むひまがなかったと、電車にゆられながらひらく。
「鎌倉は詩人を誘う」という三木卓さんの文章が載っていた。
なにげなく読んでいて、最後の2行でふいをつかれて
思わず泣いてしまう。
この展示は、4月18日(日)まで。
皆様どうぞお出かけください。
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この白薔薇を、きのうお誕生日だった人へ。