職場に見えたお客さんが、
1年前に亡くなった人のお墓参りに行ったと話し始める。
昨年の事を語っていたはずがいつのまにか数十年前のこととなり、
「その人」がいつのまにか「彼」になっていた。
亡くなったことに対しては淡々と、
生きている間のことは鮮やかに語られる。
帰ってからしみじみとそれを思い出し、
ああ、半世紀にもわたる恋の話だったのだと気づく。
その彼にとっては、まちがいなく生涯最後の恋だったのだ。
そして生涯最後の恋人であるその女性が、
80代の今もとても美しい人だということがよけい悲しくて泣けた。