眠れぬひとよ
あなたのながい夜のために
眠りの国から来た鳥が
瞼の上に芥子の種をまきちらし翔び立ってゆくとき
昼の土地
さまよう『ゲニウスの地図』の上では
生きている精神がいたましく萎え
禾本科植物の穂がたちがれそよぎ
半球と半球の境界の涸れた谷を
痣のような雲が一匹
生け贄の羊になって永遠にひきずりまわされている
苦しんだ生きものは そこで
深く
喉を切られ
やすらかに息絶えるとよい
生きものの血がたっぷりと流れたその土地で
血で清められた岩や草木から
じょじょに
じょじょに
こわばった仮死の線という線が拭われ
消えてゆくとき
……『風は、いちはやくわたしの死後を生きる』
眠れぬひとよ
やさしい
音楽が放たれる
闇の中でひらく芥子の花
まだだれも訪れたことのない
かなしむ土地に
(「かなしむ土地」/新井豊美『夜のくだもの』所収・思潮社刊)
1月21日は、新井豊美さんの御命日です。
御命日に届いた詩の雑誌をあわせてひらきながら、
星図をたどるように、詩が結ぶ縁に思いを深めています。