9月26日は、福井桂子さんの御命日です。
十一月に
菫色の葉が落ちてきて
わたしは
滝…沢の辺りを歩いていた
魂も凍みる滝…沢の辺り
囚われの《べっこう蜂》のブローチで止めた
カヤツリ草の肩かけをまとい
朝に夜に
くぐもり声で啼く
無しつけな鳥のことをわすれたかった
どうしてか見知っている
石切り場の童子に
会いにゆこうとしているのかもしれなかった
セピヤ色のヴェールのかかった石堂あたり…
(詩集『荒屋敷』より「十一月に菫色の葉が落ちてきて」の部分を)
荒屋敷からやってきた
わたしたちだった
粉雪の吹きつけるころ
いつか
滝沢村を過ぎて
渋民…沼宮内を過ぎて
長い長い橋を渡って
サクラ林のある
あなたの荒屋敷に
必ず逢いにまいります
(詩集『荒屋敷』より「荒屋敷からやってきた」の部分を)
女童子は
淋代の浜辺で
漁網のつくろいをするやら
月の満ち欠けをしらべるやら
息もつまるほどに
魂の海図をみつめるやら
~
荒布のからまる漁網よりもこんがらかった
沼の水草のような月日が
待っているわけでもなかろうに
…川辺にしゃがみこみ
一人で食事とる巡礼者に
深くふかくおじぎをするのです
黄菊料理のひと皿をそっとさしだすのです
(詩集『荒屋敷』より「黄菊料理」の部分を)
岩山を走る風の音…きしるわだちの音がして、死ん
だ童子たちの行進。わだちをきしらせ、きしらせやっ
てくる雪風の童子。灰を俥にのせ。ひどい黒雲、
ひどい魂の嵐。十の地獄より切なく、十の地獄の街
道をかけてきたあの売市の農夫さえ、草の小径で小
手をかざす。雪風の子はころされたのだとたれに語
る。そう、だから、あの青ざめた子は幽霊の子なのだと。
(詩集『荒屋敷』より「粉雪の家族」の部分を)
今日は、八戸の地名が出てくる詩を並べてみました。
第6詩集『荒屋敷』には、とくに地名の入った詩が多いように思います。
「荒屋敷」も八戸市郊外の地名です。
探しているうちに、いくつもの作品を書き写してしまいました。
荒屋敷、石堂、売市、淋代、
あらやしき、いしどう、うるいち、さびしろ。
淋代って、ほんとになんだかさびしい。
今宵は、月もきれいです。