『dancyu』12月号の「これぞ名酒肴」。
藤田千恵子さんが書いた〈忘れがたい「あの味」をもう一度〉の
忘れがたいあの人、幡ヶ谷の居酒屋たまははきの藤村さん。
一見ぶっきらぼうで、誰よりも優しくて……。
思えば、あのお店で食べた肴、季節の料理を再現したくて、
あれこれ作っているような気がします。
「豆腐であれ、野菜であれ、魚であれ、いつも、
真っ当なものが食べられる、ということが有り難い店だった」
ほんとにそういうお店でした。
わたしはよい酒飲みではなくて、いつでもご飯が食べたかった。
お店からもらった梅干しの最後の一個を、ずっととっておいて、
ひからびて塩をふいてしまったのを、おかゆに入れて炊き
惜しみながら食べました。
毎日通っていた常連さんたちの間に座って
頃合いを見て出されるものを次々食べては飲んでいた
わたしの一番たのしい数年間でした。
『何度でもつくりたい絶品おかず438レシピ』も購入。
サンマ料理がならぶ、その下はお店のカウンター?
木目にじっと見入る。
お店に通っていた頃、店主の藤村さんと奥様に、
山口哲夫さんの詩「清酒雪山」を紹介したのでした。
この場末の立ち飲み所の常連客たちが格上と知れるもう一つの
理由はカウンターの清潔さで、たいがいの者がきわめて慎重に、
またすばやい器用さでコップと受け皿をあやつるため、机上は
べたつきを見せず、ややもして少量の酒がこぼれるやいなや、
さっとタオル製の台ふきんの影が机上にのびてきて、きれいに
ふきとられてしまう。もちろん、何らかの事故で相当量の液体が
こぼれ流れた場合は、これまた信じられないほどの緊急さで
すぼめた口がのびてきて、音もなくみごとにすすり取ってしまう
のが常で、すすり取らずにはいられぬほど、酒飲みの輝ける
未来を象徴するようなこの木製のカウンターは、清潔さを
きわだたせているのだった。
(『山口哲夫全詩集』(小沢書店)所収の「清酒雪山」より)
絶妙な描写が続く、長い詩の一部分です。
お店の清潔なカウンターと同時に、清潔なお店、清潔な人柄が
思い出されます。
いまだに面影は薄れることなく、思いもこみあげます。
あのお店に通った人はみなそうだろうと思います。
家族や恋人でもなく、性別や義理さえも超えた情の通う関係というのは、
なんて深く人をなぐさめてくれるのでしょう。
お店のお客さんも、よい人ばかりでした。
今夜は、お店を思い出しながら、ひとりたまははき会をしました。
作ったのは、居酒屋風のプレート。
左手手前が、牡蠣オイル。
その奥は、久しく口にしていなかった子持ちししゃも。
真ん中は、厚揚げのおかか納豆詰めステーキ。
おかかに刻んだたっぷりのネギとひきわり納豆と醤油を混ぜ、
切れ目を入れた厚揚げに詰めて、じっくり蓋をして焼きます。
上にもおかかと生姜をのせて。
添えたのは、アスパラ菜花。
アスパラ菜花って、茎立ち菜かなと思ったら、
アスパラ菜という野菜があるらしい。
右奥が、エリンギのおかか納豆炒め。
厚揚げのステーキに詰めたおかか+ひきわり納豆+ネギが余ったので、
裂いたエリンギ、椎茸と一緒に鍋で軽く炒め、蒸し焼きに。
納豆のくせも気にならず、よいつまみになりました。